新型コロナウイルスに対する正しい理解のために -眼科医療関係の皆様へ-
新型コロナウイルス感染症が各国へと拡大し、日本では水際対策から蔓延期へと移行しつつあります。新型コロナウイルスによる結膜炎や、涙液を介したウイルスの伝播について、科学的データに基づく解析には、まだ時間を要すると思われます。一方で、根拠のない情報もあり、間違った対応が拡大するリスクが懸念されます。
そこで日本眼感染症学会では、感染拡大防止の一助になることを目指し、関連する情報をまとめました。
(2020年3月4日)
- ●日本眼科学会・日本眼科医会からのお知らせ(国民向け)
(2020年2月27日) - http://www.nichigan.or.jp/news/062.jsp
- ●日本医師会からのメッセージ(国民向け)
(2020年2月27日) - https://www.med.or.jp/
- ●厚生労働省Q and A
- https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsu…
Q1 新型コロナウイルス感染症の法的位置づけは?
A1 今回の新型コロナウイルスは「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 指定感染症」になりました。SARSなどと同じ2類感染症となると推測されており、届け出が必須となり発生動向調査や接触者の把握が容易になり、感染の拡大や流行が把握されます。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/k…
Q2 感染経路・感染対策は?
飛沫感染(風疹やインフルエンザなどと同様)と、接触感染(アデノウイルス結膜炎と同様)の2経路とされます。またエアロゾルを介した感染が指摘されています。エアロゾルとは、気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子です。粉じん(dust)とかフューム(fume),ミスト(mist),ばいじん (smokedust)、また気象学的には,霧(fog),もや(mist),煙霧 (haze),スモッグ(smog)などと呼ばれることもあります。診療現場では、呼気中に含まれる水蒸気などになります。
感染対策上は、標準予防策の徹底、PPE(Personal Protective Equipment)の着用が推奨されます。また、アルコールや次亜塩素酸ナトリウムを用いた診療機器あるいは環境(手すり、ドアノブなど)の消毒が大切です(EKCの際と同様です)。手指衛生には石鹸を用いた手洗い、もしくはアルコール消毒が有効です。
標準予防策(スタンダード・プリコーション)とは:
感染症の有無に関わらず、すべての患者のケアに際して普遍的に適用する予防策をいう。患者および周囲の環境に接触する前後には手指衛生を行い、血液・体液・粘膜などに曝露するおそれのあるときは個人防護具を用いることです。手指衛生はその基本です。体液などを扱う際は手袋、分泌物が飛散する可能性がある場合にはマスク、ゴーグル、ビニールエプロンを使用するなど、処置行為に対して、それぞれの予防策を行います。咳エチケットも標準予防策の一環です。咳エチケットには、咳やくしゃみがあるときにはマスクなどを用いて鼻や口を覆い、分泌物で汚染されたら手指衛生を行うことが含まれます。 |
PPE(Personal Protective Equipment)とは:
主なPPE としてガウン、手袋、マスク、キャップ、 エプロン、シューカバー、フェイスシールド、ゴーグ ル等があり、場面に応じて着用します。患者毎の交換、着脱方法にも気を付けます。しっかり部位を覆うように(マスクの場合は口とともに、鼻も)着用し、使用後はマスク外側の汚染された表面を触らないように、ひもを持ってマスクを外し、すぐに廃棄します(繰り返し使わない)。入院患者では病室に入る前に着用し、部屋を出る前に廃棄します。手袋を外した後も、手洗いを励行してください。 |
Q3 新型コロナウイルス感染症における結膜炎の合併率は?
A3 十分なデータはまだ揃っていません。武漢における結膜炎の頻度は0.8%という論文が出ており、多くはないようです。
Q4 新型コロナウイルス感染症は、結膜を介して感染するのでしょうか?
A4 結膜を介する感染について、十分なデータはありませんが、可能性があります。2020年1月American Academy of Ophthalmologyは新型コロナウイルスに感染している可能性のある患者を診察する際に、口、鼻に加えて眼も防護することを推奨しています。 通常の診察では、眼科医は患者の口・鼻との距離と、涙の飛散に気を付けてください。
Q5 新型コロナウイルス感染による結膜炎の鑑別ポイントはあるでしょうか。どのように結膜炎に注意をすれば良いでしょうか。
A5 通常の結膜炎・結膜充血と新型コロナウイルス感染による結膜炎を鑑別することはできません。現段階では、標準予防策の徹底が望ましいと考えられます。涙液を介する感染伝播を否定できないため、眼や涙に触れた後の手洗いや消毒を心がけてください。
文責:日本眼感染症学会